アパレル業界の動向と将来性、ファッション・テックカンパニー
はじめに
私はファッション業界でエンジニアをしており、業界のことを知ろうと「2030年アパレルの未来 福田稔(東洋経済新報社)」を読みました。
業界のことが分かりやすく俯瞰的にまとめられていて、とても勉強になりました。
この記事に書かれていない内容も多分にあり、様々なブランドや今後の業界動向について、図表とともに理解できる内容になっています。
ファッション、アパレル業界で働かれている方、目指している方、またビジネスについて興味のあるエンジニアの方が読んでも面白い本です。
アパレル業界への提言
日本のアパレル業界に対して、著者であるローランド・ベルガーの福田さんは、次のような提言を記しています。
- グローバル市場に対して「手の届く贅沢品」で勝負する。
- 「トレンド」、「マスボリューム」市場を狙う場合は、テクノロジーを活用する。その土台を、エンジニアを内製化するなどして、中長期的に育てる。
- 良質な生地や質の高い縫製を積極的に海外へ展開する。
- 世界で通用するファッションデザイナーを生み出すため、ビジネスとアートを両輪で教育する。
- 価値の源泉となるファッションデザイナーと販売員の評価方法を見直す。
- 渋谷、表参道、銀座をファッションや美容の一大拠点として、その業界で働く外国人にとっても働きやすい環境を政策的につくる。
これらの背景を記していきます。
アパレル業界の概況
縮小していく日本市場
少子高齢化
少子高齢化が叫ばれて久しいですが、アパレル業界にもその影響は及びます。
2030年、日本の人口は1億1900万人になると予測されており、2010年と比べると、900万人も減少することになります。
数だけではなく、構成も大きな影響を及ぼします。
2030年には、人口の1/3が65歳以上の高齢者になる予想です。
人がアパレルにかける支出は、50代にピークを迎えると言われています。
現在45歳前後の、第2次ベビーブーマー世代である団塊ジュニアが、2021年以降、50代に突入します。
したがって、2021年から2030年までには、この世代が一定の市場を形成するようになると思われます。
しかし、楽観視はできません。
2024年には団塊世代が全員75歳以上の後期高齢者となります。
これは、社会保障費が膨らむと同時に、各世帯に介護費用が重くのしかかることを意味します。
アパレルにかける支出が増える、という予測は立てづらいでしょう。
単価の減少
人口動態のみならず、単価の減少が市場の縮小に影響を与えています。
ファストファッションの台頭によって、服の値段は下がり続けてきました。
これらの業態が販売する服は、安いだけでなく質も高いものが少なくありません。
メルカリで取引されるブランドのうち、最も多いのは「ユニクロ」です。 質が高いため、リセールが効くのです。
消費者は「コスパ」をシビアに捉えており、アパレルにおけるCtoCは今後も拡大を続けるのは間違い無いでしょう。
また、仕事着がスーツでない会社も増えています。 オフィスカジュアルの浸透も、単価の減少につながっています。
さらに、ECや検索サイト、SNSによって、「どこが最も安く手に入るか」の情報を簡単に入手できるようになりました。
販売する側は、販売価格を下げてでも売らなければ立ち行かなくなるため、価格低減圧力となっています。
このような状況から、バブル期には15兆円あった市場規模も、現在はその約2/3である9兆円、2030年には7兆円を割り込むまで縮小するとみられています。
国内市場のアップサイド
「インバウンド需要」と「越境EC」 には活路を見いだすことができるでしょう。
現在、国内ファッション業界においても、すでに約3000億円のインバウンド需要が発生しています。
2018年には前年比で8.7%伸び、3119万人の外国人が日本に訪れています。政府も訪日外国人の呼び込みには力を入れているため、今後も期待できる分野です。
訪日外国人は、中国の838万人を筆頭に、韓国、台湾、香港の東アジアからの観光客が約7割を占めます。
特に中国人は「爆買い」で知られてきましたが、数年前までの高級品特需から、最近では化粧品や医薬品にシフトしています。これは訪日する中国人の所得層の幅が広がったことや、中国でも高級品を購入できる環境が整ってきたことによります。
ファッション業界でインバウンドを取り込めているのは、ユニクロや無印良品、外国資本の高級ブランドなどであり、工夫次第では、中間価格帯ファッションブランドの伸び代は大きいと言えます。
越境ECも、インバウンドの伸びに合わせて、大きく伸長が望める分野です。
2017年、中国とアメリカだけで、日本のECからの購入額が約2兆円 にもなりました。 中国は前年比25%増の約1兆3000億円、アメリカは前年比16%増の約7000億円です。
現在は化粧品や医薬品、トイレタリーやお菓子などが割合として多いものの、ファッション分野も伸びており、日本のデザイナーズブランドの需要も中国で高まっているようです。
日本に訪れて、日本の製品を気に入り、帰国後も越境ECを利用して愛用する、というのがよくあるパターンです。サブスクリプションとも親和性が高いのではないかと思います。
越境ECには、関税や法制度など未整備な部分が多く、各国政府の動向を注視しなければなりませんが、大きな成長を期待できる数少ない分野です。
グローバル市場は拡大する
国内はこのような状況ですが、世界に目を向けると、アパレルは成長産業です。
2017年から2022年までの5年間で年平均5%、5年間で約28%成長する見込みです。
額に直すと、2015年には約144兆円だった市場が、2022年には約195兆円にまで拡大することになります。
発展途上国や新興国における人口増加によって、世界の人口は増え続けること、
また新興国の経済の成熟により、中間所得層、富裕層が増え、アパレル支出が増えることがその要因です。
産業構造の変化
変化する理由
以下に挙げる3つの現象により、ファッション業界を含めた小売業界全体に、構造的な変化が見込まれます。
消費者の価値観の多様化
これまで、日本のファッション業界は、中間価格帯のトレンド層が大半を占めていました。
「あの人が着ている」、「テレビ、雑誌でみたから」などの理由で、大勢の人が同じようなファッションに身を包むことです。
SNSの浸透や販路の多様化に伴い、この傾向が弱まっています。これからはより一層、個人の価値観に従って身に着けるものを選ぶ人が増えるでしょう。
世界中で共通して、人の価値観は以下の8つに分類できるようです。
- ライフスタイル追求層
- 趣味・嗜好がはっきりしており、それがファッションにも共通している人。
- 日本ではミレニアル世代から団塊世代まで幅広い層に存在する。
- 消費志向層
- 大都市に住み、仕事とバケーションが生活の中心になっている層。
- ブランドへの出費も一番旺盛な層。
- 伝統重視・保守層
- 最もコンサバティブな価値観を持っており、ファッションに対する感度は低い。
- オケージョンや地位に応じた服装には高い関心を持っている。
- 収入が高ければファッションへの支出も高くなる傾向がある。
- 日本では団塊世代に多く、諸外国と比較しても全体に占める割合が高い。
- 人間・家族重視層
- 社会志向層
- 社会問題や環境問題への関心が高く、高い倫理的価値観を持つ。
- 消費性向は高くなく、ブランドへの支出も少ない。
- 一方で、パタゴニアなど、社会問題や環境問題に対して熱心なブランドへの支出は膨らむ傾向がある。
- 先進・革新志向層
- 快楽主義層
- 後先考えず、目の前の楽しみを謳歌する層。
- スポーツチームやバンドの熱狂的なファン、労働者階級に多い。
- スポーツアパレルへの支出が多くなる傾向がある。
- グローバルSPAの主要顧客層。
- 倹約志向層
- 価値観よりも金銭を重視する層。
- 低所得者層を中心に幅広く分布しているが、稀に一定の所得を持つ層にも存在する。
これら8つの価値観を持った人はどこの国にも存在しますが、割合は国ごとに異なるので、グローバル展開する際には、各国の状況を確認する必要があります。
テクノロジーの進化
後述するアメリカの「Stitch Fix」などの先進企業によって、これまで捉えることのできなかった消費者のニーズを捉えることができるようになっています。
テクノロジーの進展についていけない企業は、こうした「創造的破壊」によって顧客を奪われ、市場からの退出を余儀なくされます。
中堅・中小企業では、長い目でテクノロジーに投資するリソースがなく、厳しい戦いを強いられるでしょう。
プラットフォーマーの強大化
今やAmazonのことを考えずに商売はできなくなりました。
このような巨大なプラットフォーマーが持つ経済圏との棲み分け、利活用が求められています。
どのような価値を提供するのか
このような状況において、小売業界のプレイヤーは自らが提供する価値を認識し、磨いていくことが求められています。
価値の軸は次の7つにまとめられると、著者は考えています。
- 利便性追求
- 利用者の利便性を追求するプレイヤー。
- ロングテール対応
- 一昔前の百貨店のように、「そこに行けば全てが揃う」というプレイヤー。
- プライスリーダー
- 低価格の訴求を価値とするプレイヤー。
- カテゴリーキラー
- 化粧品やアパレルなど、嗜好性の高い専門分野に特化して独自の価値を提供するプレイヤー。
- ライフスタイル提案
- 新しい価値観やコンテンツを提案する、ラグジュアリーブランドのようなプレイヤー。
- エンターテイナー
- アミューズメント施設など、リアルな空間での非日常体験を提供するプレイヤー。
- ローカル対応
- 地方独特なニーズに対応する、移動販売などのプレイヤー。
「利便性追求」と「ロングテール対応」はすでにAmazonなど、強大なプラットフォーマーにより確立されつつあります。
そのようなプラットフォーマーとの棲み分けを考え、上記2点以外の価値軸を構築する必要があるでしょう。
迫り来る波
デジタルネイティブがマジョリティになる
2030年にはミレニアル世代とZ世代(1990年代後半から2000年代前半に生まれた世代)を合わせたデジタルネイティブ世代が、生産人口の約65%を占めるようになります。
今よりも速いスピードで、これから2030年までの間、様々な分野におけるIT化、高度なテクノロジーの応用が進むでしょう。コンシューマー領域だけではなく、ビジネス領域も例外ではないと思われます。
労働者の高齢化
原材料、製品生産の分野で、事業者の高齢化が顕著になっています。
働き手が集まらない上に、後継者も見当たらないことが多く、廃業するケースが非常に多いようです。
IT対応の遅れも相まって、生産拠点の国外移転やコスト低下圧力に耐えきれず、
事業者数はバブルの頃の1/4にまで減少しており、2030年までに現在の半分になっていても不思議ではないようです。
価格帯の二極化と中間価格帯の変化
ファストファッションブランドの強大化やAmazonのファッション業界参入によって、 ファッションブランドにおける価格帯の二極化が進んでいます。
高価格なラグジュアリーブランドと、高品質だが低価格で商品を提供するブランドが大半を占めるようになり、中価格帯のトレンド市場は徐々に衰退していきます。
ラグジュアリーブランドは、グループ化による寡占化が進行しています。
数多の高級ブランドを傘下に収める、LVMHなどのハイブランドに限らず、コーチなど、比較的手の届きやすい「アクセシブル・ラグジュアリー」市場でもグループ化が進んでいます。
ラグジュアリー市場は、中国やアメリカなどの富裕層の拡大に落ち着きが見え始めたことで、単独での成長に陰りが出てきました。
加えて、浮き沈みの激しい(景気の影響を強く受けるため)ブランド市場において、「ポートフォリオ経営」が浸透し始めています。カテゴリやターゲットの異なるブランドをバランスよく抱えることで、リスクを低減するのです。
そして、世界的なカネ余りによって、投資家の熱い視線も注がれるようになりました。 魅力的なブランドは、多額の資金を集めることでさらに積極的になり、上場や投資家による株式の売却によって、大きなブランドがさらに巨大化する流れができています。
「マスボリューム市場」は、グローバルSPAの独壇場です。
ZARAやユニクロが提供する、スケールメリットの効いた高品質・低価格の商品に対抗するのは、多くの企業にとって困難です。
グローバルSPAの中でも、テクノロジーを活かしきれているブランド、そうでないブランドに別れてきていて、それが勝敗にも結びつき始めています。
このような状況下で、中価格帯の構図にも変化が生じています。
トレンド市場の縮小とともに、特色の薄い中価格帯のブランドは衰退し、代わりに個人や小さな組織がつくるブランドが乱立するようになってきました。
資金面では「クラウドファンディング」、販売・マーケティング面では「EC」と「SNS」、生産面では「デジタルサプライチェーン」によって、ブランドを立ち上げてファンをつくり、商品を販売するまでが容易になっています。
その結果、特色の薄いこれまでの中価格帯ブランドは規模の縮小や撤退を迫られ、小規模なブランドやショップが乱立し、それを補完するECモールやSNS、シタテルなどのサプライチェーンサービスが規模を拡大する市場構造になっています。
日本のアパレル産業が抱える構造的課題
製品輸出額が極端に少ない
2014年の統計によれば、衣料品の輸出額は、イタリアの約2.4兆円、フランスの約1.1兆円に対し、日本はたったの400億円弱です。
製造業の空洞化が叫ばれるアメリカでさえ、約5600億円の衣料品を輸出しています。
理由は、ファストファッションの浸透やデフレによる単価減少に対抗すべく、多くの国内アパレルが、国外に生産拠点を移したことが1つ。
もう1つの理由は、国内工場の賃金が伸び悩み、労働者不足、後継者不在が重なって、廃業を選択した工場が多いことです。
海外で注目される生地を大量に輸出している
2014年における日本の生地輸出額は約3250億円で、 イタリアの約半分ではありますが、イギリスやフランスの生地輸出額を上回っています(それぞれ、約1570億円、約1980億円)。
東レや帝人といった大手企業が紡ぐ生地のみならず、和歌山の「エイガールズ」、福井の「第一織物」など、中堅・中小企業による生地も、世界で高く評価されています。
しかし、衣料品の原材料費は価格の10%〜40%であり、最終製品の輸出を伸ばした方が業界全体としては効率がよくなります。
これだけの良質な生地を生み出せる環境がありながら、それを付加価値の高い最終製品やブランドに変えられる企業やデザイナーが、国内には少ないのが現状です。
付加価値の高いデザイナーズ・ラグジュアリー・ブランドが生まれれば、生産側にも大きなメリットがあります。
- 賃金が上がり、小ロット、低単価・短納期の仕事から解放され、よりクリエイティブな仕事に集中できる。
- 職人の心身が健康になり、仕事への誇りも高まり、後継者も現れやすくなり、技術・事業の継承がしやすくなる。
中堅・中小の生地生産企業では、国外からの受注に対応できるベースが整っていないことも少なくありません。
国内工場を活用した、付加価値の高い国産ブランドによる輸出が増えるようになれば、国内工場が抱える問題も、解決するかもしれません。
日本のアパレル業界が目指すべき道
アクセシブル・ラグジュアリー市場を狙え
「アクセシブル・ラグジュアリー」とは、手の届く贅沢を意味し、いわゆる「デザイナーズブランド」を指します。
エルメスなど「プレミアム・ラグジュアリー」よりも手頃な値段の領域です。
その理由
プレミアム・ラグジュアリーには歴史と正当性が求められます。
ルイ・ヴィトンやシャネルをはじめとした一流メゾンと言われる欧米のブランドは、長い歴史とストーリーを持っています。
元は和服の日本が欧米流のプレミアム・ブランドを標榜したところで、「Why Japan?」となってしまうのです。
加えて、プレミアム・ラグジュアリー市場では、高い経営管理能力が求められます。
そのポイントは、カテゴリーの拡大による高いブランド力と高い収益性の両立です。
靴やバッグ、香水、アパレル、時計、インテリアなど、ライフスタイル全体を取り込むまでにカテゴリーを拡大し、ブランドの世界観を伝え、同時に高い収益性を確保するのがプレミアム・ラグジュアリーです。
例えば、バッグの粗利は80%〜90%強と、40%以下であるアパレルのそれとは対照的です。
プレミアム・ラグジュアリーに移行できそうな、日本のデザイナーズブランドは経営管理とクリエイティブの役割分担が曖昧で、ブランド経営に必要な人材が不足しています。
まずは、アクセシブル・ラグジュアリー市場を土俵とするのが現実的です。
この市場であれば、デザイナーのクリエイティビティと独自性で勝負することができます。
勝つための鍵
1. 日本らしさの付与
洋服が欧米起源である以上、日本ブランドは、日本ならではの要素を備えている方が受け入れられやすいでしょう。
世界で受け入れられやすい、「日本らしさ」のキーワードは次の5つであると、著者は考えます。
- ストリート
- ラグジュアリーブランドにおけるグローバルトレンドになっている。
- 裏原文化は世界でも知られており、その影響を受けたデザイナーも多い。
- テクノロジー
- ジャパンブルー
- ジャパニーズ・ミニマル
- わびさびの様式美。禅(ZEN)の世界観。
- スティーブ・ジョブズなど海外セレブにも浸透している。
- 日本固有のコンテクストとして、世界に伝わりやすい。
- アルチザン
- フランス語で「職人」を意味する。
- ファッションに限らず、日本のものづくりから連想されるイメージとして世界に定着している。
2. 独自性の追求
特定の人たちから、熱く支持されるだけの世界観を構築する必要があります。
独自性を発揮するポイントは、製品だけではありません。
ビジュアルイメージや店舗での顧客とのコミュニケーション、ブランドやデザイナーの背景にあるストーリーや哲学など、一貫性を保ちながら複数のポイントにまたがるのが理想的です。
インターネット上のサービスによって、同じ価値観を持った人たちが、国境をこえて繋がるようになりました。現代は「グローバルニッチ」戦略を立てやすい時代なのです。
社会的地位や自己顕示的なラグジュアリー消費を促すのではなく、個人の感性・価値観に深く響く、個人の喜びに立脚したラグジュアリー消費を促すことが可能です。
著者は、このようなブランドのあり方を「パーソナル・ラグジュアリー」と呼びます。
3. ビジネス基盤の確立
「ビジネス基盤」とは、会計・経理・財務、取引先のマネジメント、組織づくりなど、ビジネスオペレーションを確立していくために必要なピースの総称です。
イヴ・サンローラン、ジョルジオ・アルマーニなど、偉大なデザイナーの傍に優秀な経営者がいたことで大きく発展したブランドは少なくありません。
中長期的なブランドの発展を見据えて、クリエイティブと経営管理は役割分担を行い、チームで運営する体制を早期に整えるべきです。
ビジネスの体制づくりを支援するサービスや、プライベートエクイティファンドなど、外部のサービスを活用するのも1つの手です。
他の市場は、険しくもリターンが大きい
ここまで論じてきた 「アクセシブル・ラグジュアリー」には、勝機こそあるものの、リターンが大きくありません。 スケールメリットが利きにくいからです。
日本を代表するデザイナーズ・ブランド、コムデギャルソンのようなブランドを仮に10立ち上げることができたとしても、最終製品の輸出額は3000億円にも届かないでしょう。
日本が輸出規模を大きくするためには、スケールメリットの利くトレンド市場などへのアプローチが必要です。
トレンド市場
日本のトレンド市場は、似たような製品があふれていますが、世界には独自性を発揮したグローバルブランドが存在します。
世界に247店舗を展開するH&Mグループの「コス」、スペイン・バルセロナ発で、世界に約320店舗を展開する「デシグアル」などが、その最たる例です。
中間価格帯でグローバル化を狙うならば、今あるブランドからではなく、全く新しいブランドを立ち上げるべきだと、著者は提言します。
国内の中間価格帯のブランドは、世界からみればどれも同じようなものに映るからです。
マスボリューム市場
ファストファッションが主戦場とするこの市場は、日本のブランドで言えば、ユニクロや無印良品のような成功例が出ているものの、生産背景は海外中心となっています。
従来のアパレル産業を前提にして、国内の生産背景を利用すると、中価格帯のトレンド市場でないと採算が合いません。
しかし、ECとAIを活用することで、この常識が覆されるかもしれません。
後述するイギリスの「boohoo」は、イギリスの生産背景を利用して低価格のファストファッションを展開しています。
最初は小ロットで生産し、ECでのテスト販売で需要を見定めてから生産量を決める方式をとっているため、極めてロスが少なくなっています。
マーケットに素早く対応するためには、リードタイムを極力短縮する必要がありますが、そのために国内の生産背景はうってつけなのです。
原価率は高いものの、ロスがなく、店舗もほとんど持たないため、利益が残ります。
このように、ビジネスモデルの工夫次第で、国内生産背景を活用しながら、マスボリューム市場で利益を出すことは可能です。
これからのマスボリューム市場における成功の鍵は、「デジタル・ファストファッション」 です。
ストア型ファストファッションである「フォーエバー21」や「トップショップ」は成長に限界が見え始めており、H&Mでさえ業績悪化に苦しんでいます。
はるかに無駄が少なく、消費者が求めるものをいち早く低価格で届けるDtoC型のマーケットインアプローチは、世界の新しいトレンドになりつつあり、持続可能社会を重んじる風潮にも合致します。
国内でもEC専業プレーヤーは出てきていて、boohooのようなテスト&リピートは導入しているものの、需要予測とデザインにおけるAIの活用が進んでいません。
日本のアパレル業界がテクノロジーに疎いこと、良質なエンジニアが業界に不足していることがその原因で、中長期的にはエンジニアを内製化し、社内にノウハウを蓄積するべきだ、と著者は説いています。
「生地」と「裁縫」は世界で勝てる
消費から生産までがデジタルに繋がったことで、マス・カスタマイゼーション、生産工程やメンテナンスの見える化・自動化など、様々な取り組みが行われています。
原材料の生産分野においても、デジタル化はこれからの成功の鍵となります。
日本の生地の輸出額は、その品質の高さを買われ、世界で高く評価されていますが、デジタル化によってさらに伸長する可能性を秘めています。
多くの工場ではデジタル化はおろか、英語にも対応できていないところが多く、せっかくの技術を世界に向けて発信できていないところがあります。
生地の生産では、生地見本を全てWeb上で閲覧できるだけで、その取引量は増えるでしょう。
縫製工場においても、仕様に関するやり取りで、デジタルプラットフォームをうまく活用すれば、取引先を増やすチャンスが広がります。
デジタルを活用して取引先を増やし、海外のプレイヤーと繋がりながら、個々の強みを磨いていくことで、再成長を伺うことは十分に可能です。
魅力的なブランドを生み出すために
デザイナーと販売員に高待遇を
これは企業が取り組むべき、人事改革です。
自分たちの「価値の源泉」である、デザイナーと販売員に対する待遇を改善すべきであるとしています。
国内アパレル企業のデザイナーは、サラリーマンと同じような給与体系で、リスクをとる機会も与えられていないのが現状のようです。
デザイナーは本来、結果責任は追うものの、その分報酬も大きいプロフェッショナル職であるべきです。
販売員に関しても、本社から切り出された販売子会社所属となることも多く、給与は低く抑えられています。
アメリカのブランド販売員のように「基本給+歩合」で給与を決めるなど、やる気のある人が販売員を積極的に選ぶような環境を整えるべきでしょう。
ビジネスもわかるデザイナーを育てる
デザイナーが世界に出て戦うためには、クリエーションの他にも、高いビジネススキルが求められます。
例えば展示会でのバイヤーとの交渉、コレクションでのメディア対応、ファッションコミュニティ内での振る舞いなどで、自己表現力と、売り込む力が要求されます。
欧米のファッションスクールでは、入学後1、2年の間に、自分の描いたコンセプトを相手にアピールするプレゼンテーション能力を、徹底的に鍛え上げられるようです。
かたや日本のファッションスクールには、そのような教育は手薄だそうです。
また、日本のファッションスクールは、留学生が少ないこともあり、グローバルに通用するコミュニケーション能力が身につけにくい環境です。
世界に通用するブランド、デザイナーを生み出し、国内アパレル産業を盛り上げていくためには、教育の改革が求められます。
ファッション特区をつくり、外国人材を取り込む
すでに原宿、渋谷、青山界隈は、アジアのファッショニスタから「憧れの場所」になっています。
街を歩けば、中国人をはじめとした訪日外国人の多さに気づくでしょう。
東京の中心部はファッションだけでなく、食やエンターテイメントも充実しており、観光客を呼び込みやすいコンテンツが揃っています。
「オールジャパン」にこだわらず、外国人が働きやすい環境を整えて、「一大ファッション特区」をつくる。そうすれば、東京から外国人によるブランドが生まれ、産地も潤い、多くのお金が落ちるようになるでしょう。
東京コレクションの地位も向上し、インバウンドや越境ECもさらに勢いづくかもしれません。
先述したように、技術力の高い生産背景が日本にはあり、デジタル化でコスト削減を実現できれば、ブランドにとっても魅力的な場所になり得るでしょう。
高齢化し衰退していく国内アパレル産業の勢いを取り戻すには、このような政策的な取り組みが求められます。
デジタルがもたらす10の本質的変化
1. 2割の能動的消費者は「インフルエンサー化」、「プロシューマー化」する
InstagramをはじめとしたSNSの影響で、ファッションへの関心が高い消費者が広範囲に大きな影響をもたらすようになりました。
このような人たちの中には、プロモーションだけではなく、生産活動にも関わる人が出てきています。
このような流れは今後も進み、いくつもの小規模なブランドが立ち上がる可能性があります。
2. 8割の受動的な消費者にはレコメンデーションの影響力が増す
テレビや雑誌の影響力が低下し、消費者の価値観の多様化に伴って、トレンド市場も年々縮小傾向です。
一方で、チャットボットや、AIの力によって、ユーザーに対し、科学的な観点で商品をおすすめすることが可能になってきています。
受動的な消費者はこれらのサービスを利用することで、自分にあった衣服を合理的に選択できるようになります。
3. お気に入りのブランドを「直販サイト」で購入する、「DtoC」ビジネスモデルが増える
DtoCとは「Direct to Consumer」で、自社製品を自社ECサイトを通じて、消費者に直接販売するビジネスモデルのことです。
コアなファンをつくり、Amazonや楽天を経由せず、自社ECサイトから商品を買ってもらうのが基本コンセプトになります。
コアなファンをつくるために、ブランドの運営者はInstagramなどのSNSを通じて、積極的に消費者とコミュニケーションをとります。
また、ネット上だけではなく、リアルでもイベントを開催して、ブランドの世界観を伝えます。
DtoCは、リアル店舗が少なく自社ECでの販売のため、収益性が高いという特徴があります。
「火がつく」までの生産量を小規模ロットに抑え、SNSをうまく活用しプロモーションすることができれば、初年度から黒字を狙うことも可能なようです。
DtoCをはじめ、コアなファンをつくりブランドとして中長期的に成功するには、下記3つのポイントがあります。
4. 「売り手と買い手の情報格差」がなくなり、業界人の地位と仕事が奪われる
これまで、一部のメディアやセレブリティしか参加できなかった、パーティやファッションショー、コレクション、展示会などから、半年先、1年先の流行が生み出され、 ファッション雑誌やテレビなどを通じて消費が作り出されてきました。
この常識がSNSの浸透によって崩されています。
優れた個人はインフルエンサーとなり、流行を生み出します。
業界人の特権や地位は、こうした優れた個人によって、ますます奪われていくでしょう。
5. 「無駄な在庫」を抱えるリスクがなくなる
ECが当たり前になったことで、少くない品種と極小在庫でも消費者を惹きつけることが可能になりました。
ECは、在庫を大量に抱えておく必要性が店舗に比べて格段に低く、アイテムの種類も、見せ方の工夫によって抑えることが可能です。
また、「テスト&リピート販売」ができるのはECの最大のメリットです。
これは、新商品を少量でテスト販売し、その売れ行きや反応を見て、その後の生産量を決めるという手法です。
デザインや企画における「画像解析AI」、値引きや生産量を決める「データ解析AI」、Web接客のチャットボットにおける「テキスト解析AI」など、AIの活用によって、これらのメリットをさらに強化することができます。
後述するイギリスのファッションテック企業は、このようなAIを活用して、非常に短いサイクルで商品を開発、テストし、人気のサービスを作り上げています。
日本企業の場合、こうしたテクノロジーよりも、まずはブランドの価値観やビジネスモデルにおける独自性を見つめ直すことが大切だと、著者は説きます。
日本のアパレル企業は同質的で、これらの企業がAIを活用しても、さらに同質化を加速させてしまう可能性があるとしています。
6. ただ着るだけの衣服から進化する
テクノロジーは、衣服の材料である「テキスタイル(織物、布地)」そのものも大きく進化させています。
東レとユニクロが開発した「ヒートテック」はすでに世界中の人々の間で愛用されていますが、これからは、より付加価値の高い、「エレクトロニクス」や「IoT」を活用した「スマートテキスタイル」の開発が期待されています。
2017年にGoogleとLevi'sのコラボで話題を呼んだ、「プロジェクト・ジャガード」で製品化が発表されたデニムジャケットはその好例です。
センサー機能を持つ極細のコードを糸に紡ぎ、その糸で織った布に、チップ内蔵タグを接続することで、布のセンサーを指で触ることによる、無線接続された端末の操作を可能にしました。
タグは着脱可能で、コード入りの生地は水洗いできます。
このような技術はファッションだけでなく、医療、介護、建設、スポーツ、宇宙開発など、幅広い分野で応用されることが期待されています。
7. 服づくりのデザインプロセスもデジタル化する
アパレル業界では、3DCADをはじめとするデジタルツールの導入が、他のものづくりと比較すると遅れていると言われます。
いまだに、2次元のスケッチや生地サンプルをもとに、匠の技によって3次元に立体化する、という工程を踏んでいる企業が数多くあります。
これらの作業をデジタル化することで、リードタイムは50%も削減できるケースがあるそうです。
欧米の企業の間では、急速にデジタル化が進んでおり、韓国発のサービス、CLO3Dなどが利用されています。
8. 人がいない工場や店舗が出現する
アパレルの工場は、大量の人手が必要なため、生産拠点は人件費の安い発展途上国に集中してきました。
自動化によって必要な人手が減ることで、最終消費地の近くに生産拠点を構えることが可能になります。
実際、adidasはドイツに、スニーカーのマス・カスタマイゼーションを行う工場を新設しました。「スピードファクトリー」と呼ばれ、作業の大部分が自動化されています。
また、アメリカのベンチャーからは「SEWBOT」という衣料品製造の完全自動化マシーンが開発されています。
工場だけでなく店舗でも、元Amazonの物流担当副社長が創業した「hointer」から、完全自動化ソリューションが提供されています。
昨今、日本でも人手不足が叫ばれており、こうしたサービスは、これからの救世主となる可能性があります。
完全自動化でなくとも、レジや品出しなど、業務を部分的にサポートする、「協調型ロボット」の開発と実用化が進められており、この分野は高い注目を浴びています。
9. 「マス・カスタマイゼーション」で、「受注生産」と「大量生産」の両立が可能になる
スマートフォンやネット環境、IoTなど、消費者と生産側にテクノロジーが浸透したことで、パーソナライズされた「受注生産」と低コストの「大量生産」の両立が可能になってきました。
ファッションに限らず、化粧品など数多くの分野で、この動きが活発化しています。
10. 人事業務の効率化と高度化が実現する
AIなどのテクノロジーを活用し、採用・育成・評価・配置などの人事業務の高度化、効率化を促すサービスを総称して「HRテック」と言います。
アパレル業界において、優秀な販売員の確保と評価、育成は大きなテーマです。
HRテックを活用することで、優秀な販売員のスキルを横断的に抽出・分析し、教育プログラムに反映することが可能になります。
評価についても、販売実績だけでなく、顧客満足やチームプレイにつながる指標を見える化し、効果的で、納得性のより高い人事評価を行うことができるようになるでしょう。
本で紹介されている、先進的なサービスとブランド
boohoo
イギリスの「デジタル・ファストファッション」ブランドです。
デジタル・ファストファッションは、AIやビッグデータを徹底的に活用したオンライン特化型のファストファッションを指す、著者の造語です。
イギリスでの売上は全体の約6割で、EUやアメリカにも進出、日本でも2018年からテストマーケティングを開始しています。
過去5年間で売上高は4倍以上に伸び、2018年2月期の売上は当時のレートで約840億円です。
このブランドは、次のような特徴を持っています。
- テスト&リピート
- 飽きのこないECサイト
- 毎日200〜300の新商品が追加される。
- 顧客情報によって表示する商品を変えている(パーソナライズ)。
- SNSマーケティング
- 自社メディアのほか、有名SNSサービスを活用して情報を発信。
- インフルエンサーマーケティングに特に力を入れている。
まさに、デジタル・ネイティブ仕様のブランドです。
ASOS
欧米の10代から20代に絶大な人気を誇る、イギリス発のファッションECです。
2000年の創業以来、急成長を遂げ、過去5年間の年平均成長率は50%以上に上ります。 2018年8月期の売上は約3550億円です。
11のプライベートブランドも展開しており、売上の約40%を占めます。
企画から販売までを2〜8週間という短期間で行うことで、最先端のトレンドをいち早く商品化し、消費者の心を捉えています。
ASOSは次のような取り組みで、ここまでの成長を遂げてきました。
- 越境ECの秘訣
- 国によって差異はあるものの、配送料は約300〜450円程度で、約3000円以上の購入で無料。
- 購買データをもとに、地域別に売れる商品を把握し、在庫配分、スピーディーな配送を実現。
- リサーチを繰り返し、現地に適した見せ方を工夫。
- カスタマーサポートは9ヶ国語に対応。時差にかかわらず、24時間即時返答。
- 地域の最低価格や財務指標を分析し、プライシング。
- その地域で同じ商品がASOSよりも安く販売されていた場合は、購入後に差額を割引クーポンとして受け取れる。
- ITへの投資、活用
EDITED
2009年にロンドンで創業したStylescape社が展開する、ファッション・小売り向けのビッグデータ解析サービスです。
欧米だけでなく、世界中で100以上のクライアントを抱え、世界80ヶ国以上で、ファッション関連のECサイトを常時モニタリング、解析をし、マーケティングに役立つ情報を提供します。
ラルフローレンやトミー・ヒルフィガー、ASOSといった様々なグローバルブランドがこのサービスを利用しています。
ネット上から情報を自動収集するプログラムに加えて、多数の人材を動員して、世界中のサイトからデータを収集し、Webポータル経由で、次の4つのサービスを提供しています。
- アソートメント
- 世界各国のブランド毎における商品構成をリアルタイムで見える化。
- これまでMD業務として、手動で競合他社の動向や売れ筋商品などを確認していたものをサービス化。
- プライシング
- 競合ブランドの販売当初価格からセール後の最終価格までを確認できる。
- 各ブランドのプライスレンジや価格帯別のアイテム数が一目でわかる。
- アパレル企業が値引率やタイミングを誤ったために生じる損失はかなり大きい。このリスクを低減する。
- 特に国外で展開している企業では、国ごとの価格設定や値引きを決める必要があり、欠かせないサービスとなる。
- プロモーション
- 各ブランドが過去どの時期にどのような広告を出したか、新商品はいつ発売されたかなどを製品カテゴリごとに確認できる。
- どのSNSを用いて、どの頻度でアップデートしたかまで分かる。
- プロダクトトラッキング
- リアルタイムで描く製品カテゴリの人気の傾向を確認できる。
- 新製品と値引き製品の割合やカラー別の売れ筋分析など。
- SNSやブログを分析し、カラーやシルエットなどのトレンド情報も提供する。
- ライフサイクルや半年、1年先のトレンドを簡単に把握できる。
同社のユーザー企業は、2016年、平均して15.2%も収益が向上しています。
しかしながら日本のアパレル企業は、ほとんどがグローバルでのEC展開に出遅れており、このようなサービスが必要なレベルに至っていません。
Stitch Fix
ファッションテックのスタートアップで、最も成功しているアメリカ企業です。
創業は2011年ですが、創業6年にして売上は1100億円を超えています。
同社はAIによるスタイリングサービスを提供します。
ユーザーは初回登録時に、サイズや服の好みなどを細かく答えていきます。
この回答を基にAIが作成したリストから、パーソナル・スタイリストが定期的に5アイテム選んで郵送してくれます。
郵送サイクルは隔週・毎月・2ヶ月から選択でき、ユーザーは気に入れば購入し、気に入らないアイテムは3日以内に返送用の袋で返品できます。
何も購入しない場合は、スタイリング料として20ドルかかりますが、1アイテムでも購入すれば、購入料金から20ドル割引され、5アイテム全て購入すれば25%オフになる仕組みです。
Stitch Fixは3000名以上のスタイリスト、70名以上のデータサイエンティストを抱えていて、顧客は2017年末時点で約220万人です。
ユーザーがどのような服・スタイル・サイズを好み、どのアイテムが売れるか、返品されるかが、全てデータとして蓄積され、AIによって学習されていく仕組みが出来上がっています。
同社は次の3つの分野でAIを活用しています。
- スタイリングと出荷時
- コーディネート提案の際、最初の絞り込み。
- スタイリストの選定。
- 郵送コストを最小化するための倉庫選定。
- 需要予測
- トレンドや季節の変化に伴う、ニーズの変動予測。
- 予測に基づく在庫調整。
- 返品率は徐々に改善されている。
- 売上総利益率は直近3年間で9ポイント改善し、2017年は44%となった。
- プライベートブランドでの商品開発
- デザインに画像解析の深層学習を活用。
- 全米220万人の好みのテイスト、画像に加えて、日々更新されていく売れ行きの情報をフル活用。
同社は現時点で 「世界最強のファッションデータベースを持っている」と言っても過言ではありません。
マルチブランドでどのような好み、テイストにも応えられるためです。
アメリカには様々な人種が存在し、髪、目、肌の色、体格など実に様々です。
加えて、日本と比較すると、モード以外のファッション雑誌の文化がなく、一般人のファッション感度も決して高くはありません。
市場には、自分に似合う服を知らない消費者がたくさん存在し、アメリカ人の合理的な国民性がプラスされて、このサービスが広く受け入れられています。
Amazon
アメリカの調査会社コーエン社によれば、アメリカ国内のアパレル市場におけるAmazonのシェアは2016年の6.6%から、2021年には16.2%にまで拡大する見通しです。
Amazonは、スケールを活用したサービスやAIによるサービスで情報を蓄積するとともに、プライベートブランドの開発に注力しています。
- データを貯める
- Prime Wardrobe
- プライム会員を対象とした、購入前の自宅試着サービス。
- 1週間以内であれば、返送料無料。
- Echo Look
- 自撮り用のカメラ機能がついた、Amazon Echoの別モデル。
- 全身が映ったベストショットを手軽に撮影できる。
- 専用のアプリを使えば、AIによるコーディネートアドバイスを受けられる。
- Prime Wardrobe
- プライベートブランド
- 2016年に立ち上げ、2018年4月には65ブランド。
- 2017年時点で、売上はすでに40〜50億円程度。
- レディースのキャリア向け中価格帯ブランド「Lark&Ro」が好調で、売上の1/3を占める。
- 「Alexa」を通して蓄積した情報を商品開発に活かしてくることが予想される。
- PBの開発を通して蓄積した、企画・生産・販売のノウハウをSaaS化する可能性がある。
- マス・カスタマイゼーションのアプリ、生産のサービスをアパレル企業向けに展開する可能性もある。
- 現在の商品レベルは高くないものの、今後数年を考えると油断はできない。
https://www.amazon.com/stores/LarkRo/LarkRo/page/D78EBA38-C04D-4B20-8EEE-70C7191D3728
衣邦人
中国でメンズのスーツ、シャツのマス・カスタマイゼーションを展開するサービスです。2017年12月期の売上は50億円を超え、年々倍増しています。
中国は、その広大な土地柄、南北で地域の平均身長に大きな開きがあります。女性の平均身長は、最も高い山西省と最も低い広西チワン族自治区の間で10cmもの差があります。
このように体格差のある中国では、フィット感が求められるスーツやシャツのカスタマイズニーズがあるのです。
衣邦人のサービスはユニークで、アプリ上で計測を申し込むと、同社が抱える「採寸師」がユーザーの元を訪れ採寸します。中国らしい人海戦術です。
Reformation
2009年にアメリカで生まれたSPAブランド。
生産から流通までのトレーサビリティを実現し、各工程で発生したCO2、水の使用量、原材料の廃棄量を各商品ページに掲載しています。
環境への配慮が、同社のブランドコンセプトです。
EC化率は80%を超えますが、全米に8つの店舗を持っており、店員と会話せずに試着、購入できるプロセスの設計に力を入れています。
店内に設置されたタッチスクリーンを操作して、試着したい商品を選択すると、試着室に案内されます。
試着室にはクローゼットが用意されていて、店員が選ばれた商品を都度ここに補充します。
試着室内にもタッチスクリーンがあり、違う商品を選択すれば、再び店員が商品を補充する仕組みです。
試着室の照明や音楽を調整することもできる、という力の入れようです。
このように「エシカル」と「テック」を掛け合わせた点が、同社の独自性です。
https://www.thereformation.com/
参考